自社の事業やノウハウを本にしたいと思っても、最初から出版に必要な作業を把握している企業は多くありません。
企画、構成、執筆、デザイン、校正など、書籍制作には複数の工程があり、発注担当者がすべてを管理しようとすると、本来伝えたかった内容の整理に十分な時間を使えなくなることもあります。
企業側に必要なのは、書籍制作の専門知識を身につけることではありません。
誰に何を届けたいのかを考え、自社が責任を持つべき情報と判断を整理することです。
本記事では、一般企業が本を作る際に行う業務と、そのタイミングを解説します。
人材育成支援を行う企業のビジネス書制作を支援した経験も踏まえ、どこまでを発注者が担い、どこから編集の専門家へ任せると進めやすいかを整理します。
この記事を読めば、企業側が決めることと、編集会社へ任せられる業務を工程別に整理できます。
年間150案件以上を制作し、企業出版でも構成支援、原稿の執筆・編集、進行管理を担当したGBの経験をもとに解説します。
記事の目次
本作りで企業側が最初に決めるべきこと
本を作ることが決まると、デザインや原稿の話から始めたくなるかもしれません。
しかし、最初に考えるべきなのは、内容や細かな構成ではなく「誰に届ける本なのか」です。
同じテーマを扱う本でも、想定する読者によって内容の順序や説明の深さは変わります。
たとえば、人材育成について扱う場合でも、経営者に向けた本と、現場のリーダーに向けた本では、必要な情報が異なります。
経営者向けであれば、組織全体への影響や制度設計が重要になるでしょう。
現場のリーダー向けなら、部下との接し方や実践手順を厚くする必要があります。
読者像が曖昧なまま制作を始めると、専門的な説明をどこまで入れるか?事例をどの程度詳しく扱うか?といった点で、途中で迷いが生じやすくなります。
初心者向けにするか、経験者向けにするか?理論と実践のどちらを重視するか?
これらの判断は、原稿を書き始めてからではなく、構成を作る前に行うことが大切です。
企業側で完璧な読者像を作る必要はありません。
「現在の顧客と同じ層に読んでほしい」「これから接点を持ちたい管理職向けにしたい」といった段階でも、編集者と一緒に具体化できます。
発注前に最低限整理しておきたいのは、次の3点です。
- 誰に届けたいか
- 読者が現在どのような課題を抱えているか
- 読後にどのような行動や変化を期待するか
この3点が定まると、構成、文章の難易度、内容の選び方を判断しやすくなります。
企業と編集会社の役割分担
クライアント側が責任を持つのは「内容の正しさ」
本作りでは、企業と編集会社の役割を明確に分ける必要があります。
編集会社は、情報を読者に伝わる形へ整理する専門家です。
一方、企業側は、その情報が自社の考えや実態と合っているかを確認する立場にあります。
特に、企業が持つ独自のノウハウや業務知識は、外部の編集者だけでは正誤を判断できません。
ある人材育成支援会社のビジネス書では、GBが構成、原稿の執筆・編集、進行管理を担当しました。
特に難しかったのが、情報収集と内容確認です。
そこで、原稿を書き始める前の構成に時間をかけ、企業が持つ情報を整理しました。
そのうえで、読者が理解し、実践しやすい順番へ組み直しています。
企業側に内容の正しさを確認してもらいながら制作を進め、完成・出版に至りました。
編集者は、提供された情報をそのまま文章にするだけではありません。
読者に理解しやすい順番へ並べ替え、重複する説明をまとめる。
説明が不足している部分を補い、専門用語を伝わる表現に置き換える。
読者が実践できる形へ手順を整理する──こうした作業を行いながら、文章を作成します。
ただし、内容を分かりやすくする過程で、元の意味からずれていないかを確認できるのは、その分野に詳しい企業側です。
発注担当者自身がすべての内容に回答できない場合は、社内の確認担当者を事前に決めておくと進行が安定します。
経営方針は役員、サービス内容は事業責任者、具体例は現場担当者というように、確認内容ごとに役割を分ける方法もあります。
企業側が担うのは、「この情報を自社の名前で世に出してよいか」を判断することです。
伝えたい情報に信念と責任を持ち、表現や構成については編集者へ任せる。
この分担が、本作りを円滑に進める基本となります。
構成・執筆・進行管理は編集会社へ任せられる
書籍制作で特に重要なのが、構成です。
構成とは、章や見出しを単に並べた目次ではありません。
読者がどの順番で情報を受け取れば、内容を理解し、実践へ移しやすいかを設計する作業です。
企業が本を作る場合、伝えたい情報が多くなりやすい傾向があります。
長年蓄積してきたノウハウ、社内で使っている理論、顧客への支援事例、代表者の考え方など、どれも企業にとっては重要です。
しかし、それらをすべて同じ重さで載せると、読者は何を受け取ればよいのか分からなくなります。
前述の人材育成支援会社のビジネス書制作でも、最も時間をかけたのは構成でした。
まず、企業側が持つ情報を整理し、読者に必要な内容と、補足に回せる内容を分けました。
そのうえで、読者が内容を理解し、実践できる順番へ組み直しています。
ここで重視したのは、企業が伝えたい順番ではなく、読者が理解できる順番です。
企業内では当たり前になっている考え方でも、初めて触れる読者には前提となる説明が必要です。
反対に、企業にとって重要な沿革や背景が、読者にとっては冒頭で読む必要のない情報である場合もあります。
構成段階では、次のような点を確認します。
- 読者の悩みから始まっているか
- 基礎知識の前に専門的な話が出ていないか
- 理論だけでなく具体例が含まれているか
- 読者が行動に移せる手順があるか
- 同じ内容を別の章で繰り返していないか
- 企業の紹介が長くなりすぎていないか
構成が曖昧なまま原稿を書き始めると、後から大幅な入れ替えが発生します。
執筆済みの文章を削ることへの抵抗も生まれ、結果として情報量の多い、読みづらい本になりかねません。
編集会社は、本の骨子になる構成の作成または支援から、構成・執筆・進行管理まで請け負うことが可能です。
本作りの工程と企業側が動くタイミング
本作りでは、企業側が常に作業を続けるわけではありません。
工程ごとに必要な判断や確認があります。
事前にタイミングを把握しておくと、社内の関係者にも協力を依頼しやすくなります。
企画段階:目的と読者を整理する
企画段階では、本を作る目的と読者を整理します。
「会社の認知度を高めたい」「事業の考え方を伝えたい」「研修内容を書籍化したい」など、出版の目的を言葉にします。
目的が複数ある場合は、優先順位を決めることが重要です。
採用、営業、広報、社会啓発を一冊ですべて実現しようとすると、読者と内容の焦点がぼやけます。
この段階で企業側が用意できるとよいものは、次のとおりです。
- 本を作る目的
- 想定する読者
- 読者に伝えたい中心メッセージ
- 参考にしたい書籍
- 自社が保有する資料
- 希望する刊行時期
資料が整理されていなくても問題ありません。
社内研修のスライド、営業資料、過去の記事、代表者の講演記録なども、構成を考える材料になります。
構成段階:入れる内容と優先順位を確認する
構成案が作成されたら、企業側は内容の不足と優先順位を確認します。
ここでは、「この章で本当に伝えるべき内容が入っているか」を見ることが大切です。
この段階で何度も言葉だけを調整しても、後から章の順番が変われば修正が無駄になる可能性があります。
まず全体の流れを確定し、その後に各章の内容を詰めます。
執筆段階:必要な情報を提供する
執筆が始まると、編集者やライターから質問が届きます。
たとえば、次のような確認です。
- この考え方を導入した背景は何か
- 実際にはどのような場面で使うのか
- よくある失敗例はあるか
- 具体例として紹介できる事例はあるか
- 読者が実践する際の注意点は何か
企業側では当たり前の情報でも、外部の人には分からない部分があります。
質問への回答が具体的であるほど、原稿にも実務の厚みが出ます。
長い文章を書く必要はありません。
箇条書きや口頭での説明をもとに、編集者が文章へ整える進め方も可能です。
原稿確認段階:事実と方向性を確認する
原稿確認では、内容の正誤を中心に確認します。
特に見るべきなのは、次の点です。
- 自社の考え方とずれていないか
- 事例や数値に誤りがないか
- 誤解を招く表現になっていないか
- 公開できない情報が含まれていないか
- 読者に実行してほしい内容が明確か
複数人で確認する場合は、意見をまとめる担当者を一人決めるとよいでしょう。
確認者ごとに異なる修正が入ると、原稿の方向性が揺れます。
会社として採用する意見を整理してから編集側へ返すことで、修正の往復を減らせます。
デザイン・校正段階:見え方と最終的な正確性を確認する
原稿が確定すると、ページのデザイン作業へ進みます。
この段階では、文章だけでなく、図や表、写真、見出しとの組み合わせを確認します。
企業側が確認するのは、主に次の内容です。
- 図や表の内容が正しいか
- 写真やロゴを掲載してよいか
- 重要な説明が目立っているか
- 読者に誤解を与える見せ方になっていないか
- 修正した原稿が正しく反映されているか
デザインが完成してから構成や文章を大きく変えると、ページ全体の作り直しが発生します。
内容に関する大きな判断は、原稿段階までに終えることが基本です。
情報収集と内容確認は早めに体制を作る
企業の書籍制作で難しくなりやすいのが、情報収集と内容確認です。
発注担当者が書籍制作を専任で担当できるとは限りません。
広報、営業、採用などの通常業務と並行して進めるケースも多くあります。
原稿が届いてから社内の確認者を探すと、回答を得るまでに時間がかかります。
特に、複数の部署にまたがる内容を扱う本では注意が必要です。
誰が判断できる情報なのか分からず、原稿が社内を回り続けることもあります。
制作開始時に、次の体制を決めておくと進めやすくなります。
すべての確認を一人に集中させる必要はありませんが、最終的に意見を取りまとめる窓口は必要です。
編集会社との連絡担当者を一本化することで、判断の行き違いを防げます。
資料提供についても、完成された原稿を渡す必要はありません。
編集者にとっては、社内資料や議事録、講演用のメモ、過去の取材記事なども重要な情報源になります。
どの情報が本に使えるか分からない場合は、まず共有し、編集側で整理する方法があります。
情報を集めることと、読者に伝わる形へ編集することは別の仕事です。
企業側だけで完成原稿を作ろうとせず、素材の段階から相談することで、負担を抑えながら制作を始められます。
企業側が抱え込まず、編集会社へ任せたい業務
企業が本を作るとき、すべての工程を社内で管理する必要はありません。
特に、構成、執筆、編集、デザイン、進行管理は、それぞれ異なる専門性を必要とします。
編集会社へ任せられる主な業務には、次のようなものがあります。
- 企画内容の整理
- 読者像の具体化
- 全体構成と目次の作成
- 取材内容の整理
- 原稿の執筆
- 支給原稿の編集
- 図や表の企画
- デザイナーへの指示
- スケジュール管理
- 校正と修正の取りまとめ
どの範囲を依頼するかは、企業の体制によって異なります。
社内に執筆できる人がいる場合は、原稿の編集と構成だけを依頼する方法があります。
反対に、テーマと資料だけを用意し、取材、執筆、デザインまでまとめて依頼することも可能です。
発注時には、簡単な企画書などで、次の点を伝えることが重要です。
- 現時点で決まっていること
- 社内で対応できること
- 外部へ任せたいこと
- 誰が内容を確認するか
- 希望するスケジュール
- 予算上の制約
依頼範囲が曖昧でも、相談しながら整理できます。
むしろ、社内で無理に工程を決めてから依頼するより、早い段階で編集会社へ相談したほうが、必要な人材と進め方を設計しやすくなります。
企業側が本作りで最も力を使うべきなのは、編集作業そのものではありません。
誰に何を届けるかを考え、自社が社会へ伝える内容に責任を持つことです。
それ以外の工程は、必要に応じて専門家へ任せることができます。
よくある質問
本の内容が固まっていなくても相談できますか
相談できます。
伝えたいテーマや、出版を考えた背景があれば、企画や構成を整理するところから進められます。
社内資料、講演内容、研修資料などをもとに、本に向いている内容を検討することも可能です。
社内で原稿を書いてから依頼したほうがよいですか
必須ではありません。
原稿を書ける人がいる場合でも、先に構成を決めることをおすすめします。
構成がないまま書き始めると、内容の重複や難易度のばらつきが生じやすく、特に複数人で書いていく場合は危険です。
箇条書きや取材への回答をもとに、編集側で原稿を作る方法もあります。
企業側の作業はどのくらい必要ですか
依頼範囲によって異なりますが、読者と目的の確認、資料提供、原稿の内容確認、最終承認は必ず必要です。
構成、執筆、編集、デザイン、進行管理は外部へ依頼できます。
社内で使える時間や人員を伝えたうえで、無理のない分担を決めることが大切です。
まとめ
企業が本を作る際には、次の3点を押さえることが重要です。
- 最初に、誰へ何を届ける本なのかを整理する
- 内容(自社の情報と考え方)には責任を持ち、伝え方は編集者へ任せる
- 原稿より前に構成へ時間をかけ、読者が理解し実践できる順番を作る
発注担当者が書籍制作に詳しくなる必要はありません。
目的、読者、自社が確認すべき内容を整理できれば、企画、構成、執筆、編集、デザイン、進行管理は専門家と分担できます。
株式会社ジー・ビーでは、企業が保有する資料やノウハウを整理し、読者へ伝わる書籍へ組み立てるところから支援しています。
企画や原稿が固まっていない段階でも、社内で対応できる業務と外部へ任せたい範囲を整理し、制作体制をご提案します。
- この記事の監修者
-
株式会社G.B.
雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。
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