導入事例や社長インタビューを制作したくても、社内に取材経験がなく、何を聞けばよいのか分からない。
そんな悩みを抱える広報・マーケティング担当者は少なくありません。
生成AIを使えば、公開情報を整理して記事の形にすることは可能です。
しかし、それだけでは他社の記事と似た内容になりやすく、自社ならではの経験や判断までは伝えられません。
独自性のある記事をつくるには、当事者にしか語れない一次情報を引き出す必要があります。
そのために重要なのが、質問を並べるだけではない「取材設計」です。
この記事では、GBが著者本などの制作で培ってきた経験をもとに、限られた時間で必要な一次情報を引き出し、読者に伝わる記事や書籍へ組み立てる方法を解説します。
記事の目次
AIが苦手なのは、文章ではなく一次情報をつくること
生成AIは、文章を書く作業に高い能力を発揮します。
テーマや条件を入力すれば、見出し案を出し、文章を整え、長い資料を要約することもできます。
一方で、AIが扱えるのは、基本的にすでに存在している情報です。
企業の公式サイトや商品資料、過去の記事をもとに、会社の特徴をまとめることはできます。
しかし、商品の開発中にどのような問題が起きたのか、なぜ経営者がある場面で方針を変えたのかまでは分かりません。
企業の記事に独自性を生むのは、こうした公開されていない情報です。
たとえば、導入事例では、次のような内容が一次情報になります。
- 顧客が導入前に抱えていた具体的な課題
- 複数の選択肢から、その商品を選んだ理由
- 導入途中で生じた問題と対応
- 担当者が特に評価している点
- 導入後に社内で起きた意外な変化
商品の機能や一般的なメリットは、Webサイトや営業資料でも確認できます。
しかし、導入の過程で何が起き、担当者が何を考えたのかは、本人に聞かなければ分かりません。
社長インタビューも同様です。
会社の沿革や経営理念を並べるだけなら、既存資料をもとにAIでも文章を作れます。
ところが、どの経験から現在の考え方が生まれたのか、なぜ別の選択をしなかったのかといった部分は、取材によって初めて明らかになります。
AI時代に必要なのは、単に「一次情報が大切だ」と認識することではありません。
記事の目的に必要な一次情報を見極め、取材によって生み出すことが重要です。
一次情報の質は、取材時間より取材設計で決まる
取材というと、対象者に長時間話してもらい、録音した内容から使える発言を探す仕事だと思われることがあります。
しかし、時間をかければ、必ず良い情報が得られるわけではありません。
質問の目的が曖昧なまま話を聞くと、公式サイトや会社案内に書かれている内容が繰り返されます。
その結果、本人にしか語れない経験や判断を聞く時間がなくなることもあります。
取材はドキュメンタリーではありません。
対象者の話を最初から最後まで記録することが目的ではなく、制作物に必要な情報を得ることが目的です。
そのため、取材前には「何を聞くか」だけでなく、「何を聞かなくてよいか」も整理します。
公開資料や既存記事は、取材前に調べておく
企業の公式サイトや会社案内、商品資料、過去の記事などで確認できる情報は、取材前に読み込んでおきます。
もちろん、既存資料の内容が現在も正しいかを確認する必要はあります。
ただし、取材時間の大半を基本情報の説明に使う必要はありません。
事前準備では、情報を次のように分けます。
- 資料だけで確認できる情報
- 本人に事実確認したい情報
- 資料にはなく、取材で聞くべき情報
- 記事の核心として掘り下げたい情報
この整理ができていれば、取材では核心に近い質問から始められます。
たとえば、「会社の歴史を最初から教えてください」と聞くだけでは、既存資料と同じ説明になる可能性があります。
一方で、事業転換の時期を事前に確認しておけば、次のように質問できます。
この時期に事業の方針が変わっていますが、何が判断のきっかけになったのでしょうか。
同じ会社の歴史を扱う質問でも、得られる情報の深さは大きく変わります。
完成形の「絵図」を描いてから聞く
取材前には、記事や書籍がどのような流れになるのか、仮の構成を描きます。
これは、取材前に結論を決めるという意味ではありません。
現在分かっている情報と、不足している情報を把握するためです。
たとえば、社長インタビューを次のような流れで構成するとします。
- 現在の事業と会社の特徴
- 創業や事業転換の背景
- 転機となった出来事
- 現在大切にしている判断基準
- 今後目指す方向
構成を仮置きすると、「事業内容や沿革は資料にあるが、転機で何を考えたのかが分からない」と気づけます。
そこで取材では、転機となった出来事や、その際の判断に時間を使います。
実際に話を聞いた結果、当初の想定とは異なる重要な出来事が出てくることもあります。
その場合は、構成のほうを組み直します。
取材設計は、予定した答えへ相手を誘導するためのものではありません。
大切な話を見落とさず、必要に応じて方向を変えるための準備です。
4時間×2回の取材で、256ページの著者本を制作
GBでは、著者本人への取材をもとに原稿を作る書籍制作にも携わってきました。
一般に「著者本」というと、著者自身が最初から最後まで原稿を書いているイメージを持たれるかもしれません。
しかし、著者の考えや経験を編集プロダクションが取材し、構成と執筆を担当するケースもあります。
完成した原稿は著者に確認してもらいます。
そのうえで、意図と異なる部分や、説明が不足している箇所を修正しながら、一冊の本に仕上げます。
ある著者本では、1回4時間の取材を計2回行い、256ページの書籍を制作しました。
ただし、合計8時間の取材だけで、256ページ分の情報をすべて話してもらったわけではありません。
公開資料や既存情報で確認できる内容は、編集側で事前に整理しました。
そのうえで、著者本人でなければ語れない部分に取材時間を使っています。
取材前に、本全体の構成を仮置きする
最初に行うのは、本のテーマと読者を踏まえた構成づくりです。
どの章で何を扱うのか、著者の経験をどの順番で見せるのかを仮に決めます。
すると、既存資料をもとに書ける箇所と、取材が必要な箇所が見えてきます。
取材では、章立ての順番どおりにすべてを話してもらうとは限りません。
著者が話しやすいテーマから聞くこともあれば、本の核となる出来事を先に確認する場合もあります。
重要なのは、その場の会話を盛り上げることではありません。
書籍の制作に必要な情報を把握することです。
取材で得た内容が当初の構成に収まらなければ、構成を変更します。
実際の発言を、無理に事前の筋書きへ合わせることはしません。
本人にしか語れない核心を聞く
書籍に掲載するすべての文章を、著者の発言だけで構成するわけではありません。
時代背景や一般的な情報は、編集側で資料を確認して原稿にできます。
取材では、資料だけでは書けない内容を聞きます。
たとえば、出来事そのものが既存資料に残っていても、次の情報までは記録されていないことがあります。
- そのとき、何を問題だと考えたのか
- なぜ、その選択をしたのか
- 反対意見をどう受け止めたのか
- 当時と現在で考えが変わった点はあるか
- 読者に最も伝えたいことは何か
こうした情報が、著者の考えや人物像を伝える核になります。
取材時に、
出来事の概要はこちらで整理しますので、判断が変わった場面について詳しく教えてください。
と伝えれば、著者にも質問の目的が分かります。
質問する側と話す側が、おおよその完成形を共有できるため、取材内容が大きくずれにくくなります。
短い取材を目指すのではなく、不要な時間を減らす
取材設計の目的は、取材時間の短さをアピールすることではありません。
対象者に必要以上の負担をかけず、制作に必要な情報を得ることです。
企業の経営者や担当者は、通常業務の合間に取材へ対応します。
既存資料を読めば分かることを、何時間も説明してもらう進め方は効率的ではありません。
事前準備ができていれば、次のような質問ができます。
- 資料にはこのようにありますが、実際の判断で重視した点は何ですか
- 導入前後で、現場の反応はどのように変わりましたか
- 当初想定していなかった結果はありましたか
- この取り組みで、最も大切だったことは何ですか
これらは、公開情報を確認する質問ではありません。
当事者の経験や判断を聞くための質問です。
ただし、取材回数を減らせばよいわけでもありません。
テーマが複雑な場合や、一度の取材では情報が不足した場合には、追加取材を行います。
最初の取材で全体像を聞き、原稿を作ったあと、抜けている部分を確認することもあります。
取材設計とは、機械的に時間や回数を減らすことではありません。
何が不足しているかを判断し、必要なところに時間を使うことです。
編集プロダクションは、一次情報を伝わる形に変える
取材で得た発言を、そのまま掲載すれば記事になるわけではありません。
会話には、言い直しや重複があります。
話題が前後することもあれば、本人にとって当然の前提が省略されていることもあります。
反対に、会話では長く説明された内容でも、記事では数行にまとめたほうが伝わる場合があります。
そこで編集プロダクションは、取材後に情報を整理します。
- 何が客観的な事実なのか
- 何が本人の考えや評価なのか
- どの発言が記事の核心になるのか
- 読者に伝えるために、どの前提説明が必要か
- どの順番なら誤解されにくいか
この整理を経て、取材で得た情報を記事や書籍の文章へ変えていきます。
重要なのは、発言を読みやすく整えることだけではありません。
本人の意図と原稿がずれていないかを確認し、誤解が生まれそうな表現を調整します。
説明が足りなければ、追加で確認することもあります。
取材前に構成を考えておくと、原稿と発言のずれにも気づきやすくなります。
当初想定していた主張と、実際に聞いた話が違えば、原稿側を変更します。
一方で、構成がないまま取材をすると、大量の発言記録から後で筋道を探さなければなりません。
印象的な話だけに引っ張られ、記事本来の目的から外れてしまう可能性もあります。
一次情報の価値は、珍しい話を聞けたかどうかだけで決まるものではありません。
読者に伝わるように、情報を選び、並べ、補足するところまでが編集です。
AIを活用しても、取材の判断は人が担う
AIと編集者を、単純に対立させる必要はありません。
既存資料の整理、長文の要約、質問項目のたたき台づくりなど、AIが役立つ場面は多くあります。
取材前の準備を効率化できれば、編集者は一次情報を得るための設計や判断に、より多くの時間を使えます。
ただし、AIが作った質問を順番に読み上げるだけでは、良い取材にはなりません。
相手の回答を聞きながら、次のような判断が必要になります。
- 予定していなかった話を掘り下げる
- 曖昧な表現を具体化する
- 前後の発言との矛盾を確認する
- 話したくない内容には無理に踏み込まない
- 記事の目的に合わせて質問を切り替える
取材は、用意した質問項目を消化する作業ではありません。
回答を受けて、次に何を聞くかを決める仕事です。
相手の言葉の背景を考えながら、どこまで掘り下げるべきかを判断する必要があります。
AI時代に編集プロダクションが提供する価値は、「人間のほうが上手な文章を書ける」と主張することではありません。
すでにある情報の整理にはAIを活用しながら、必要な情報を見極め、当事者から引き出し、読者に伝わる形へ設計する。
この工程にこそ、編集プロダクションが担う役割があります。
まとめ|AI時代の編集は、一次情報をつくる設計から始まる
AIによって、文章作成や情報整理は効率化できるようになりました。
しかし、企業独自の経験や判断は、公開情報を整理するだけでは得られません。
- 企業独自の一次情報は、当事者への取材によって引き出す
- 良い取材には、事前調査と仮の構成による取材設計が欠かせない
- 編集プロダクションは、得られた情報を読者に伝わる形へ組み立てる
取材はドキュメンタリーではありません。
すべてを聞くのではなく、誰に何を伝えるのかを決めたうえで、必要なことを聞く。
その設計が、他社にはない記事や書籍を生み出します。
導入事例や社長インタビューを作りたいものの、社内に取材・構成・執筆のノウハウがない場合は、企画段階から編集プロダクションへ相談する方法があります。
GBでは、企画の種の段階からご相談を承り、取材前の資料整理、質問設計、構成、執筆まで、制作物の目的に合わせて対応しています。
お気軽にお問い合わせください。
- この記事の監修者
-
株式会社G.B.
雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。
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