専門家が持っている知見には、正確で価値のある情報が詰まっています。
しかし、その内容をそのまま書籍に載せても、一般の読者に伝わるとは限りません。
専門用語を減らせば、正確さが失われるかもしれない。
説明を丁寧に重ねれば、今度は読むハードルが上がってしまう。
専門書や教養書の制作では、正確性とわかりやすさの間で難しい判断を迫られます。
そこで必要なのは、難しい言葉をやさしく言い換えることではありません。
専門家が伝えたい本質を保ちながら、読者が興味を持ち、理解できる順序と表現へ組み替える「翻訳」の技術が求められるのです。
この記事では、さまざまな専門知識を一般読者が親しみやすい形に噛み砕いてきた株式会社ジー・ビーの編集チームが、専門性を一般読者へ届けるための考え方を紹介します。
記事の目次
専門性の「翻訳」は、言葉をやさしくするだけではない
「専門的な内容をわかりやすく伝える」というと、難しい用語を日常的な言葉へ置き換える作業が思い浮かびます。
もちろん、専門用語に説明を加えることは必要です。
しかし、それだけでは十分ではありません。
専門家と一般読者では、そのテーマについて持っている前提知識が異なります。
専門家にとっては当然の因果関係でも、一般読者には途中の説明が抜けているように見えるかもしれません。
反対に、専門家が正確さを期して細部まで説明すると、読者は何が重要なのかを見失うことがあります。
そこで、編集で行う「翻訳」は、少なくとも次の点を整理します。
- 読者がすでに知っていることは何か
- どこから説明を始める必要があるか
- 最初に覚えてほしい要点は何か
- どの情報を本文に残すか
- どの情報を注釈や補足へ回すか
- 文章以外で示したほうが伝わる内容は何か
- 読者の関心を引く入口をどこに設けるか
つまり、翻訳する対象は「言葉」だけではありません。
情報の順番、分量、見出し、具体例、図解など、一冊の伝え方全体を組み替えます。
正確性とおもしろさは、トレードオフではない
専門書や教養書を一般読者向けに制作するとき、難しいのが「正確性」と「おもしろさ」の両立です。
専門家は、誤解のない表現を追求する傾向があります。
その一方で読者は、内容が正しいというだけで本を手に取るわけではありません。
「知りたい」「意外だ」「続きを読みたい」と感じられる設計がなければ、簡単に離脱してしまいます。
正確性とおもしろさを両立するために有効なのが、誌面の要素ごとに役割を分ける方法です。
- 見出し……読者の興味を引き、ページの内容へ導く役割を持たせる
- 本文……条件や背景を含め、内容の正確性を担保する
- 図解・イラスト……文章だけではイメージしにくい関係や構造を、視覚的に示す
- 注釈・補足……本文の流れを止めずに、例外や専門的な情報を補う
このようにして、書籍を構成する要素ごとに役割分担を設計すれば、専門家が求める正確性と、読者が求める読みやすさを両立しやすくなります。
【実例】世界遺産の専門的な見解を図解本へ翻訳
過去に株式会社ジー・ビーで、ある世界遺産について解説する図解本を制作したときの実例を紹介します。
監修を担当したのは、その分野に詳しい専門家の方々です。
制作にあたって、専門的な見解や資料を数多く共有していただきました。
どの情報も正確で、研究や調査に基づく重要な内容です。
ただし、それらを専門家が説明する順番や言葉のまま掲載しても、一般の読者が興味を持って読める図解本にはなりません。
制作中には、専門家側が求める正確性と、読者へ届けるためのおもしろさの間で、調整が必要になる場面もありました。
監修者から見れば、条件や背景を省くことには不安があります。
編集サイドが見出しを短くしたり、キャッチーな言葉を使ったりすると、専門的な観点からすると不正確な表現となる可能性があります。
反対に、すべての正確な説明を見出しや本文の冒頭から盛り込みすぎると、読者は疲れてしまいます。
そこで、正確性とおもしろさを誌面の中で分担しました。
本文では、専門家の見解を踏まえて、事実関係や背景を丁寧に説明します。
重要な条件を落とさず、誤解のない表現を使いました。
見出しや図解では、一般読者が「これはどういうことだろう」と関心を持てる表現を検討しました。
ただし、内容から離れた強い言葉は使いません。
見出しで興味を引き、本文で正確に答える。
図解で全体像をつかんでもらい、キャプション(図の近くに入る補足文)で理解を深める。
こうして、それぞれの要素に異なる役割を持たせました。
専門家から受け取った情報を、
- 読者が興味を持つ入口
- 最初に理解してほしい要点
- 正確性を支える説明
- 視覚的に示すべき関係
- 補足として残す情報
へと分解し、誌面上で組み直したのです。
この作業こそ、専門性を一般読者向けに翻訳する編集といえます。
専門家の原稿を「そのまま生かす」ことが最善とは限らない
専門家の文章は、内容に信頼性があります。
そのため、なるべく手を加えず掲載したほうがよいように思えるかもしれません。
しかし、専門家が専門家に向けて説明する文章と、一般読者に向けた文章では、必要な設計が異なります。
専門家の文章には、次のような特徴が表れることがあります。
- 結論へ至るまでに前提が多い
- 一文の中に複数の条件が入る
- 専門用語の説明が省略されている
- 例外や留保が細かく記されている
- 重要度の異なる情報が同じ密度で並んでいる
これらは、専門的な文章としては欠点ではありません。
解説の正確性を保つために必要な場合もあります。
問題は、一般読者が同じ読み方をできるとは限らないことです。
編集者は、専門家の知識を勝手に単純化するのではなく、まず内容を理解します。
そのうえで、読者がつまずきそうな場所を探します。
専門用語そのものが難しいのか。
説明の順番に前提が抜けているのか。
具体的なイメージが不足しているのか。
重要な部分が情報の中に埋もれているのか。
その原因によって、必要な「翻訳」が変わります。
あるときは、専門用語に注釈で説明を加えるだけでよい場合もあります。
またあるときは、文章の構成を大きく変えたほうがよい場合もあります。
また文章ではなく、図にしたほうが伝わる内容もあるでしょう。
このようにして、一般読者が専門家の貴重な知見にたどり着くための「経路」をつくるのが、一般書を主戦場にする編集プロダクションの存在価値です。
編集プロダクションは、専門家と読者の間に立つ
専門性の高いテーマを一般読者向けに編集するためには、わからない箇所を曖昧にせず、読者と同じ目線から問い直すことです。
- この言葉は初めて読む人にもわかるか
- ここまでの説明で読者の頭の中に因果関係がつながるか
- 最初に知るべき情報はこれでよいか
- 読者が誤解する余地はないか
- おもしろさのために意味が変わってしまっていないか
専門家にとって当たり前の部分ほど、一般読者には説明が必要です。
編集者が途中でつまずいたなら、読者も同じ場所でつまずく可能性があります。
株式会社ジー・ビーでは、専門的な情報を正しく扱いながら、一般の読者がおもしろく読み進められることを目指して、専門家と読者の間をつなぐ役割を果たしています。
まとめ|専門性の翻訳は、情報の価値を保ったまま届け方を変える
専門性を一般読者向けに翻訳するとは、難しい言葉をやさしく言い換えることだけではありません。
読者の前提知識に合わせて、情報の順番と分量を組み直す
見出し、本文、図解、注釈に異なる役割を持たせる
正確性を守りながら、読者が興味を持てる入口をつくる
専門家が持つ情報の価値を残しつつ、そのままでは届かない部分を編集する。
読者に合わせて届け方を変えても、意味までは変えない。
このバランスを探り続けることが、専門書のハードルを下げる「翻訳」の技術です。
株式会社ジー・ビーでは、専門家への取材や監修資料をもとにした書籍・ムックの制作に対応しています。
専門的な内容の整理から、一般読者向けの構成、原稿、図解、デザインまで、一冊全体の伝え方をご相談いただけます。
- この記事の監修者
-
株式会社G.B.
雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。
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