本や冊子をつくりたいと思ったとき、最初の打ち合わせで聞かれそうなことを並べてみると、かなりの数になります。
読者は誰か。
何ページにするか。
取材は必要か。
写真は支給か撮影か。
誰が原稿を書くのか。
予算はいくらか。
いつ発行するのか。
販売するのか、配布するのか。
既存資料はどこまで使えるのか――。
「まだそこまで決まっていない」
「相談するための準備だけで大変そう」
と感じる方もいるでしょう。
けれど、株式会社ジー・ビーが最初にお伝えしたいのは、全部を決めてから相談する必要はないということです。
最初に考えたいのは一つだけです。
「誰に、何を届け、その人にどうなってほしいのか」
この問いが見えてくると、ページ数や取材範囲、必要な素材などは、あとから順番に決められます。
今回は、営業と制作の間で企画を整理してきた岩本に、
複雑に見える制作相談を軽くするための考え方を聞きました。
この記事でわかること
01最初に決めたいのは「誰に、何を届け、どうなってほしいか」。
02ページ数や取材範囲は、最初は仮置きでもかまわない。
03営業と制作が一緒に「決める順番」をつくると、企画は進みやすくなる。
記事の目次
制作の相談は、なぜ重たく見えるのか
本づくりには、企画、編集、取材、執筆、デザイン、校正、印刷、販売・配布など、多くの工程があります。
しかも、一つの条件を変えると、別の条件も動きます。
ページ数が増えれば費用や日程が変わり、読者が変われば構成や言葉も変わります。
そのため制作側は、事故や手戻りを防ぐために細かな質問をします。
質問が多いのは、相談を難しくしたいからではありません。
ただ、最初からすべてに答えようとすると、相談者にとっては
「企画書を完成させないと相談できない」ように見えてしまいます。
岩本は、そこで一度、質問を増やすのを止めるといいます。
「細かい条件はもちろん必要です。
ただ、最初から全部を同じ重さで聞くと、何が大事なのか分からなくなります。
箇条書きで整理されていても、前提も分からなければ、優先順位も分からないのですから、むしろ混乱しますよね。
ですから、まずは『この制作物を誰に届けて、読んだあとにどうなってほしいのか』を一緒に考えます。
そこが見えれば、必要な確認をこちらで並べ替えられます」
最初に決めるのは「仕様」ではなく、一つの問い
たとえば「自社の取り組みを紹介する本をつくりたい」という相談があったとします。
この段階で、判型やページ数を決めても、企画の中心はまだ見えません。
新しい顧客に事業を知ってもらいたいのか。
採用候補者に会社の考え方を伝えたいのか。
既存顧客との関係を深めたいのか。
社員に自社の歩みを共有したいのか。
同じ資料を使う場合でも、相手と目的が違えば、適した形は変わります。
だから最初に、以下の三つの問いを一続きの問いとして考えます。
①誰に届けるのか。
②何を持ち帰ってほしいのか。
③その結果、どんな行動や理解につなげたいのか。
経営やマーケティングの言葉でいえば、これは「今回、最初に答えるべきイシューを定める」作業です。
ただし、難しい分析から始める必要はありません。
「いちばん伝えたい相手は誰だろう」と話すところからで十分です。
| ページ数・媒体 本/冊子/Web、判型、構成 |
取材・原稿・素材 人数、執筆、写真、既存資料 |
予算・日程 費用、発行時期、確認回数 |
| まず決める一問 「誰に、何を届け、どうなってほしいか」 |
||
| 誰に いちばん届けたい相手 |
何を 知り、感じ、持ち帰ってほしいこと |
どうなってほしいか 行動や理解の変化 |
中心の問いが決まると、上の細かな条件を必要な順番で検討できます。
残りの条件は、三つの箱に分ければいい
中心の問いが見えたら、残りの条件を一度に確定させるのではなく、三つに分けます。
一つ目は、今、決めること。
主な読者、制作の目的、読後に期待する変化など、企画の方向を左右する項目です。
二つ目は、いったん仮置きすること。
ページ数、取材人数、発行時期、制作物の形などです。
現時点の想定を置き、調査や見積もりを進めながら調整します。
三つ目は、あとで確かめること。
支給写真の解像度、掲載許諾、細かな表現、印刷部数など、方向性が決まってから確認した方が効率のよい項目です。
この分け方をすると、「まだ決まっていない」が問題ではなくなります。
未確定の項目があっても、それが今決めることなのか、後でよいことなのかが分かれば、企画は動かせます。
| 今、決める | いったん仮置きする | あとで確かめる |
|---|---|---|
| 企画の方向を定める | 検討を前へ進める | 制作条件を詰める |
| 主な読者 目的 読後の変化 |
ページ数 取材人数 発行時期 |
写真の解像度 掲載許諾 印刷部数 |
| 関係者で合意する | 前提と見直す時期を残す | 担当者と確認期限を決める |
未確定でも、どの箱に入る条件かが分かれば企画は動かせます。
ここからは少し実務の話。「仮置き」を曖昧なままにしない
簡単に始めることと、雑に始めることは違います。
条件を仮置きするときは、「何となくこのくらい」と口頭で済ませず、現時点の前提を短く残します。
たとえば「全80ページを想定」「取材は3名まで」「写真は原則支給」「10月発行を目標」と置いたうえで、誰がいつ判断するのか、変更すると費用・日程・品質のどこに影響するのかを添えます。
これだけで、仮の条件がいつの間にか確定事項として扱われるのを防げます。
制作実務では、企画の途中で新しい情報が見つかるのが普通です。
類書を調べてから章立てを変えることも、誌面サンプルを見てページ数を見直すこともあります。
変更そのものを失敗と考えず、変わった理由と、次に決める人を見えるようにする。
これが出版制作における、軽やかな要件整理です。
専門的にいえば、目的、担当範囲、制約、未確定事項を更新し続ける「要件定義」に近い作業です。
しかし、最初に分厚い要件書をつくる必要はありません。
打ち合わせ後に「決まったこと」「仮に置いたこと」「次回までに確認すること」の三つを共有するだけでも、認識のずれはかなり減らせます。
「できる・できない」より、成立する条件を探す
営業と制作で見えているものは違います。
営業は、相談に至った背景、先方の期待、社内決裁の事情などを聞いています。
制作は、読者に届く内容になるか、素材と人員をそろえられるか、品質を保って完走できるかを見ています。
そのため、営業が「できそうだ」と考えた案に制作から懸念が出ることもあります。
反対に、制作が難しいと感じた案でも、対象や範囲を変えれば成立することがあります。
大切なのは、どちらかの判断を正解にすることではありません。
「このままでは難しいが、ここを変えればできる」「この条件は譲れないので、別の方法を考える」と、成立する条件を探すことです。
「営業が受けたいから制作に押し込むことも、制作が難しいと言ったからそのまま断ることも、できるだけ避けたいと思っています。
社内で率直に懸念を出してもらえた方が、先方にも早く選択肢を返せます。
意見を合わせることより、顧客が判断できる材料をそろえること、また、その判断によりどのようなリスクリターンがあるかを確認できるようにした上で、当社からの提案を出せるようにすることを大切にしています」
既存資料を使う相談も、最初の一問で軽くなる
既存の社内報、営業資料、Web記事などを使って、新しい冊子や本をつくりたいという相談はよくあります。
素材が多いほど進めやすそうに見えますが、情報の重複や古さ、想定読者の違い、写真や文章の利用条件など、確認項目も増えます。
ここでも、最初から全資料を精査する必要はありません。
まず「今回は誰に、何を届けるのか」を決め、その目的に使えそうな資料だけを小さく選びます。
数ページの見本や簡単な構成案をつくれば、流用できるもの、書き直すもの、追加取材が必要なものが見えてきます。
大量の資料を前にしても、最初にすることは分類作業ではありません。
企画の中心を決め、必要なものだけを見ることです。
これだけで、作業量も相談時の心理的な負担も小さくなります。
先方にも「その先」がある。だから報連相は短く、細かく
相談者が、最終決裁者とは限りません。
広告代理店や印刷会社からの相談なら、その先に発注元がいます。
企業の広報担当者からの相談でも、経営者、現場、採用担当など、説明や合意が必要な相手がいるでしょう。
こちらが捉えたイシューが妥当でも、窓口担当者が社内で説明しにくければ、意思決定は進みません。
そこで、相手が次に誰へ説明するのか、いつまでに何を決めたいのかを確認します。
比較が必要なら短い表にする。
誌面の雰囲気が論点ならサンプルを見せる。
急ぐときは、決定事項、未確定事項、次に決めることだけをメールで返す。
毎回重い企画書をつくるのではなく、相手が次の判断に使える形へ整えます。
報連相を細かくすることは、情報を大量に送ることではありません。
一度の連絡で、一つの判断を進めることです。
迷ったときは、この三問だけでいい
これから本や冊子、Webコンテンツを相談するとき、完成した仕様書は必要ありません。
まずは、次の三問を考えてみてください。
1 いちばん届けたい相手は誰か。
2 その人に、何を知り、感じ、持ち帰ってほしいか。
3 いま、誰が何を決めれば一歩進むか。
三つとも明確でなくてもかまいません。
「読者が二つに分かれて迷っている」「社内で目的がそろっていない」という状態自体が、相談の出発点になります。
こうした整理を、G.B.では営業だけ、制作だけに任せず、両者が仮説を持ち寄って進めています。
便宜上「技術営業」と呼ぶこともありますが、特別な肩書きを示したいわけではありません。
企画を難しく説明するのではなく、次に決める一つを見つけるための役割です。
本づくりには、確かに多くの工程があります。
ただし、最初からすべてを背負う必要はありません。
まず一つの問いを一緒に決める。
そこから、必要な条件を必要な順番で整えていけば、企画はきちんと前へ進みます。
- この記事の監修者
-
株式会社G.B.
雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。
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