「会社のことを一冊の本にしたい」と考えたとき、多くの担当者が最初に悩むのは、「何を書けばよいのか」ということです。
創業の歴史、経営理念、商品やサービス、技術力、社員、実績、将来の展望。
社内を見渡せば、伝えたい情報はいくらでも見つかります。
しかし、それらをすべて盛り込んだからといって、読者に伝わる本になるとは限りません。
編集者が最初に考えるのは、「何を書くか」だけではなく、「何を書かないか」です。
企業出版は、会社の情報をそのまま本に収める仕事ではありません。
情報を整理し、読者が興味を持つ入口をつくり、理解しやすい順番へ並べ替える仕事です。
株式会社ジー・ビーでは、出版社向け書籍の制作をはじめ、自伝、人物本、マンガ自伝などの制作に携わってきました。
人や企業の歩みを取材し、多くの情報の中から核となる物語を選び、一冊に組み立てる。
そこで培った編集の考え方は、企業出版にも生かすことができます。
この記事では、会社の言いたいことだけを並べた独りよがりな本にしないために、企画段階で考えておきたいポイントを紹介します。
記事の目次
企業出版は、会社案内を本にする仕事ではない
企業出版という言葉から、会社案内や社史を豪華な書籍にしたものを思い浮かべる方もいるでしょう。
もちろん、沿革や事業内容を記録することも、企業出版の大切な役割です。
ただし、会社が説明したい順番と、読者が知りたい順番は必ずしも一致しません。
企業側は、創業から現在までを時系列に沿って説明したくなります。
一方、初めてその会社を知る読者は、まず「この会社は何をしているのか」「自分とどのような関係があるのか」を知りたいかもしれません。
例えば、ある商品を紹介する場合も、最初から仕様や機能を並べるより、「どのような困りごとから生まれたのか」「誰の役に立っているのか」を示したほうが、価値を理解しやすくなります。
創業者の歩みを伝える場合も、経歴を順番に並べるだけでは、その人らしさは見えにくいものです。
大きな失敗や転機、忘れられない出会いなどから始めたほうが、読者は人物に興味を持ち、その後の経歴にも自然と目を向けられます。
企業出版に必要なのは、会社の情報を漏れなく掲載することではありません。
読者が興味を持ち、読み進め、最後に会社の強みを理解できるように構成することです。
最初に決めるべきなのは「誰に読んでもらうか」
企業出版の企画を考えるとき、「会社のことを知ってもらいたい」という目的だけでは、内容を絞り込めません。
採用候補者に読んでもらう本と、新規顧客に手渡す本では、必要な情報が違います。
社員向けの周年記念誌と、一般の書店で販売する本でも、見せ方は大きく変わります。
採用活動に使うのであれば、学生や転職希望者が知りたいのは、沿革の細かな説明よりも、どのような人が働き、どのような考え方で仕事をしているのかという点かもしれません。
営業やブランディングが目的なら、商品や技術の特徴だけでなく、顧客の課題をどう捉え、どのように解決してきたのかを示す必要があります。
周年事業として制作する場合は、過去を記録するだけでなく、会社の価値観が現在へどう受け継がれているかを整理すると、社員や関係者にも読まれる一冊になります。
企画の初期段階では、次の三つを明確にしておくことが重要です。
- 主な読者は誰か
- 読後にどのような印象を持ってほしいか
- 読後にどのような行動につなげたいか
「信頼できる会社だと感じてほしい」「働く姿を具体的に想像してほしい」「技術の価値を理解してほしい」など、目指す読後感が決まれば、載せるべき内容も選びやすくなります。
会社が伝えたいことを、すべて入れない
企業出版の打ち合わせでは、さまざまな資料が集まります。
会社案内、パンフレット、社内報、沿革、商品資料、受賞歴、新聞記事、社員インタビュー、過去の写真など、どれも企業にとっては大切な情報です。
そこで起こりやすいのが、「せっかくなので、これも載せたい」という情報の追加です。
一つひとつの内容には意味があります。
しかし、情報を足し続けると、本の軸が見えにくくなります。
読者が読み終えたときに、「結局、何が強みの会社なのか」が分からなくなってしまうこともあります。
編集では、情報を集めたあとに、企画の目的に照らして優先順位をつけます。
採用を目的とした本なら、細かな商品仕様を削り、社員の仕事や成長の過程を厚くする。
技術力を伝える本なら、一般的な沿革を短くし、開発の工夫や品質管理の考え方を詳しくする。
創業者の理念を残す本なら、実績の一覧ではなく、重要な判断をした場面を掘り下げる。
削ることは、情報の価値を否定することではありません。
本当に伝えたい内容を目立たせるために、役割の弱い情報を整理する作業です。
編集者は、ページを埋めるために情報を増やすのではなく、読者の記憶に何を残すかを考えて構成します。
自伝・人物本づくりと企業出版はよく似ている
企業出版と自伝は、扱う対象が会社と個人という違いはありますが、編集の進め方には多くの共通点があります。
自伝を制作するとき、生まれてから現在までの出来事を順番に並べるだけでは、その人らしさは伝わりません。
経歴を確認することは必要ですが、編集者が知りたいのは、履歴書には表れない価値観や判断の背景です。
そのため、取材では「いつ何をしたか」だけではなく、次のようなことを聞いていきます。
- 「仕事に対する考え方が変わった出来事は何ですか」
- 「最も悔しかった経験は何ですか」
- 「今の仕事につながる転機はどこにありましたか」
- 「今でも忘れられない人や言葉はありますか」
こうした質問から、その人の行動原理や、現在につながる物語が見えてきます。
企業出版でも同じです。
「創業は何年か」「従業員は何人か」「どの商品を扱っているか」という事実だけでは、その会社らしさは十分に伝わりません。
創業者はなぜその事業を始めたのか。
苦しい時期に何を守り、何を変えたのか。
商品開発で何度も失敗しながら、なぜ続けられたのか。
社員が受け継いでいる考え方は何か。
企業の個性は、会社概要よりも、こうした判断や行動の中に表れます。
株式会社ジー・ビーでは、自伝や人物本、マンガ自伝の制作を通じて、人の歩みを読者に伝わる物語へ組み立ててきました。
取材で得た情報を整理し、どの出来事を軸にするかを決め、必要に応じて写真やマンガを組み合わせる。
その編集ノウハウは、企業の物語を一冊にする際にも役立ちます。
取材で集めた情報の多くは、本には載らない
一回の取材で、数時間分の録音データが残ることがあります。
さらに、社内資料、写真、年表、関係者の証言などを合わせると、書籍に掲載できる量を大きく超える情報が集まります。
すべてが興味深くても、そのまま本にすることはできません。
一冊にはページ数があり、読者が集中して読める情報量にも限りがあります。
そこで編集者は、似た話をまとめ、重複を削り、企画の核から離れる内容を外していきます。
その際、単に面白いかどうかだけで判断するわけではありません。
その話が会社の強みにつながっているか。
ほかの章と役割が重なっていないか。
初めて読む人にも背景が分かるか。
読後に残したい印象を支える内容か。
こうした基準で取捨選択します。
社内では有名な出来事でも、前提を知らない読者には伝わりにくいことがあります。
反対に、社員が当たり前だと思っている日常の習慣が、外部の人から見ると企業文化を象徴する魅力的なエピソードになることもあります。
編集者が外部の視点を持つ意味は、企業自身では気づきにくい価値を見つけることにもあります。
編集者は、資料に書かれていない会社らしさも見ている
企業取材では、インタビューで語られる言葉だけが情報ではありません。
社員同士がどのように話しているか。
工場やオフィスがどのように使われているか。
掲示物にどのような言葉が書かれているか。
来客に対してどのような対応をしているか。
何気ない風景に、その会社が大切にしていることが表れる場合があります。
例えば、現場の担当者が気軽に改善提案を伝えている会社なら、社員の声を中心に構成すると企業文化が伝わりやすくなります。
長年蓄積した技術が強みなら、経営者の言葉だけでなく、職人の手元や工程、道具を丁寧に見せる必要があります。
地域との関係が深い企業なら、会社の中だけで完結させず、顧客や地域の人の証言を入れることで、社会の中で果たしてきた役割が見えてきます。
企業出版の企画は、最初に決めた構成を機械的に埋める作業ではありません。
取材を通して見つかった魅力に応じて、章の順番や見せ方を調整することも必要です。
読ませたい内容に合わせて、文章・写真・図解・マンガを使い分ける
企業出版では、文章だけですべてを説明しようとすると、誌面が重くなりがちです。
一方で、写真や図を多くすれば読みやすくなるとは限りません。
大切なのは、伝える内容に適した表現を選ぶことです。
文章は、考え方や背景、出来事の経緯を丁寧に伝えるのに向いています。
写真は、人物の表情や仕事の現場、製品の質感など、言葉では説明しにくい空気を伝えます。
図解は、複雑な事業の仕組み、サービスの流れ、部署や商品の関係、数値の推移などを整理する際に有効です。
マンガは、創業時の出来事や商品開発の苦労、顧客とのやり取りなど、人物の感情が動くエピソードを印象的に伝えられます。
例えば、製品が完成するまでの工程を長い文章で説明するより、全体の流れを図解で示し、重要な工程だけを本文で掘り下げたほうが理解しやすくなります。
創業者が困難を乗り越えた場面も、事実を淡々と並べるより、当時の状況や心情をマンガで見せたほうが、読者が物語に入りやすいことがあります。
ただし、図解やマンガを入れること自体が目的になってはいけません。
まず「このページで何を理解してほしいか」を決め、そのために最適な表現を選びます。
図解は、文章をそのまま絵にするものではない
図解をつくる際に起こりやすいのが、文章に書かれている情報をすべて図へ入れてしまうことです。
要素を増やしすぎると、一目で理解できるという図解の利点が失われます。
図解で重要なのは、情報を足すことではなく、関係を整理することです。
順番を見せたいのか。
比較したいのか。
全体像を示したいのか。
数字の変化を見せたいのか。
目的によって、適した図の形は変わります。
事業の流れならフローチャート、複数サービスの関係なら相関図、歴史の変化なら年表、商品ごとの違いなら比較表が向いています。
図解で全体像をつかみ、本文で理由や背景を読む。
このように役割を分けることで、専門的な内容も理解しやすくなります。
出版社向け書籍で培ってきた図解制作の経験は、企業出版でも活用できます。
企業側が持っている専門知識を、一般の読者にも分かる構造へ変換することが、編集の役割です。
マンガは、企業の物語を親しみやすく伝えられる
マンガを使った企業出版は、単に誌面を楽しくするためのものではありません。
マンガが力を発揮するのは、人物の感情や、出来事の前後関係を見せたいときです。
創業者が最初の顧客を得た場面、商品開発が行き詰まった場面、社員のひと言から新しいサービスが生まれた場面などは、表情や会話を交えて見せることで、読者の記憶に残りやすくなります。
また、長い文章を読むことに慣れていない人にも入りやすいため、採用向けの冊子や、社内外の幅広い年代に配布する周年誌とも相性があります。
一冊すべてをマンガにする方法だけでなく、各章の冒頭に短いマンガを入れる、重要なエピソードだけをマンガにするなど、目的や予算に応じて使い方を調整できます。
マンガ自伝の制作では、取材した内容をそのままセリフにするのではなく、限られたコマの中で何を見せるかを選びます。
場面を絞り、人物の行動や感情が伝わるように再構成する力は、企業のストーリーをマンガ化する場合にも欠かせません。
企業出版を依頼するときに確認したいこと
企業出版には、企画、取材、執筆、編集、撮影、図解、デザイン、校正、印刷など、多くの工程があります。
相談先を選ぶ際は、完成した本の見た目だけでなく、企画や構成の段階から対応できるかを確認することが重要です。
企画が固まっていなくても相談できるか
「本をつくりたい」という希望はあっても、読者や構成まで決まっているケースは多くありません。
手元にある資料や実現したい目的をもとに、何を軸にするかを一緒に考えられる会社であれば、企画の初期段階から相談できます。
原稿を書き始める前に方向性を整理したほうが、途中で構成を大きく変更するリスクも抑えられます。
取材・執筆・編集まで任せられるか
社内に執筆できる担当者がいない場合は、取材をもとに原稿を作成できるかを確認します。
反対に、すでに原稿がある場合でも、そのままデザインへ進むのではなく、読者に伝わる構成になっているかを編集段階で見直すことが大切です。
企業側で原稿を書く、制作会社がすべて執筆する、双方で分担するなど、状況に応じた進め方があります。
図解やマンガまで含めて提案できるか
複雑な事業や専門的な技術を扱う場合、文章だけでは伝わりにくい部分が出てきます。
図解、写真、イラスト、マンガをどこに使うかまで考えられる制作会社であれば、内容に合った誌面を設計できます。
表現手段を先に決めるのではなく、読者に伝えたい内容から逆算して提案してもらえるかを確認するとよいでしょう。
校正や事実確認の体制があるか
企業の公式な出版物では、社名、人名、年次、商品名、数値などの誤りを避ける必要があります。
原稿の誤字脱字だけでなく、表記の統一、本文と図版の整合、掲載情報の確認など、どこまで校正に対応するかも重要です。
社内確認の回数や、誰が最終判断をするのかも、制作開始前に決めておくと進行がスムーズになります。
本づくりの過程で、自社の強みが見えてくる
企業出版の成果は、完成した本だけではありません。
取材を進める中で、経営者が考えていた強みと、社員が感じている強みが違うことがあります。
長年続けてきたため社内では当たり前になっていた取り組みが、外部から見ると大きな価値を持っていることもあります。
創業時の出来事を振り返ることで、現在の企業文化の由来が分かる。
社員への取材を通して、部署を超えて共通する価値観が見えてくる。
顧客の声を集める中で、自社が選ばれている理由を再認識する。
このように、本づくりは自社の歴史や強みを整理する機会にもなります。
完成した本は、営業や採用、周年行事で配布するだけでなく、社員教育や理念共有にも活用できます。
会社が大切にしてきたことを、経営者個人の言葉だけでなく、社員や顧客のエピソードを含めて残せる点も、書籍ならではの価値です。
まとめ|企業出版は「伝えたいこと」を「伝わる形」に変える仕事
企業には、伝えたい情報が数多くあります。
しかし、そのすべてを一冊に入れることが、よい企業出版につながるわけではありません。
重要なのは、誰に読んでもらうのかを定め、その読者に何を持ち帰ってほしいかを決めることです。
そのうえで、情報を選び、読者が理解しやすい順番へ組み立てます。
文章で背景を伝えるのか。
写真で現場の空気を見せるのか。
図解で仕組みを整理するのか。
マンガで人物の感情を描くのか。
内容に合った表現を選ぶことで、企業の魅力は伝わりやすくなります。
企業出版は、会社の情報を保管するためだけのものではありません。
会社が大切にしてきた考え方や、商品・サービスの背景にある物語を、社内外の読者へ届けるためのものです。
そのために必要なのが、企業の言葉をそのまま載せるのではなく、読者の視点から再構成する編集です。
企業出版を企画段階からご相談いただけます
株式会社ジー・ビーでは、出版社向け書籍の制作をはじめ、自伝、人物本、マンガ自伝などの制作に携わってきました。
取材内容や既存資料を整理し、読者と目的に合わせて構成を考え、執筆、編集、図解、デザインなど、一冊に必要な工程を組み立てます。
「会社の歴史を本にしたいが、どこから手をつければよいか分からない」「採用や営業に活用できる本をつくりたい」「原稿はないが、社内に資料や写真はある」といった段階でもご相談いただけます。
まずは、本をつくる目的や、伝えたい相手についてお聞かせください。
会社の中にある情報を整理し、どのような一冊にできるかを企画段階からご提案します。
よくある質問
企業出版の企画が決まっていなくても相談できますか?
はい。
読者や章立てが決まっていない段階でも、出版の目的や現在ある資料をもとに企画を整理できます。
採用、営業、周年事業、理念共有など、目的によって適した構成をご提案します。
原稿は社内で用意する必要がありますか?
必ずしも必要ではありません。
経営者や社員への取材、既存の会社案内や社内資料などをもとに執筆することが可能です。
社内で作成した原稿を編集・リライトする方法もあります。
自伝や人物本のような構成にもできますか?
可能です。
創業者や経営者の歩みを軸にする、複数の社員の証言を組み合わせるなど、人物を通して企業の歴史や価値観を伝える構成も考えられます。
図解やマンガを入れることはできますか?
内容に応じて、図解、イラスト、写真、マンガを組み合わせられます。
複雑な事業の仕組みは図解、創業時のエピソードはマンガというように、伝える内容に適した方法を検討します。
写真や資料が十分にそろっていなくても制作できますか?
現在ある資料を確認したうえで、不足する情報を取材や撮影で補うことができます。
会社案内、社内報、過去の記事、Webサイトなども制作資料として活用できます。
少部数でも制作できますか?
用途や仕様に応じて検討できます。
社内配布、営業用、採用イベント用など、必要な部数や予算を確認しながら、印刷方法や体裁を決めていきます。
- この記事の監修者
-
株式会社G.B.
雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。
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