「フットワークの軽い営業」は、もう重い。AI時代、本当に速い営業とは?

行動の速さではなく、資料を読み、前提を疑い、次の仕事まで進める「思考の先回り」

AI時代の営業論 | クリティカルシンキングと編集の力

3行要約
  • フットワークの軽さだけでは、相手の仕事を増やす「重い営業」になりかねない。
  • 本当に速い営業は、資料を読み、前提を疑い、相手が判断するための仕事を先に終わらせる。
  • 編集プロダクションにも、制作の速さを超えて、案件全体を前へ進める「思考の先回り」が求められている。

月曜日の午前9時3分。
ある企業の担当者に、営業から提案書が届きました。

9時10分には「ご不明点があれば、すぐに伺います」というメール。
昼前には補足資料が届き、午後には「明日であれば訪問できます」と電話が入ります。
返事が早く、行動も速い。
以前であれば、その勢いに押されて、そのまま打ち合わせの日程を入れていたかもしれません。

ところが、担当者は提案書を生成AIに読み込ませ、こう尋ねました。

生成AIへの指示

「この提案を採用する場合の懸念点、確認すべき契約条件、社内で反対されそうな論点を整理してください」

数分後、費用の根拠、既存施策との重複、成果の測定方法、社内の作業負担、契約を終了する場合の条件まで、確認事項が一覧になりました。
担当者は、その内容をもとに返信文も作らせます。

翌朝、営業担当者のもとには、丁寧ではあるものの、簡単には返せない質問が並んだメールが届きました。
昨日まで軽快に進んでいたはずの商談が、そこで止まります。

営業担当者の足取りは軽い。
けれど、相手側に確認事項や社内説明の仕事を積み増した瞬間、その営業は「重い」存在になります。
本当に速い営業とは、誰より早く動く人ではなく、案件全体を早く進める人です。

「フットワークの軽い営業」が、相手には重くなる

生成AIによって、営業側だけでなく、提案を受ける側も短時間で考えを整理し、反論し、保留し、断れるようになりました。
以前は返信を書くこと自体が負担で、「そこまで悪い提案ではないし、ひとまず話を聞こう」と進んでいた商談も、今では数分で懸念点を言語化できます。
営業が速く動けば、そのまま相手を一歩先へ連れていけた時代ではなくなりました。

その一方で、アポイントなしの訪問や、結論を急かすようなリマインドは、「フットワークが軽い」と評価されるどころか、相手に新しい返信義務や会議の負担を発生させます。
行動するたびに相手の仕事を増やすなら、軽快に見える営業ほど、受け手には重く感じられます。

もちろん、返信の速さが不要になったわけではありません。
ただし、本当に速い返信とは、受信確認を早く返すことではなく、相手が次の判断へ進める状態を早くつくることです。
必要であれば長くてもよい。
現時点の理解、認識がずれそうな点、次に確認する人、必要な資料まで整理されていれば、メール一通で相手の仕事をいくつも減らせます。

図1 「動きが速い営業」と「案件全体を速くする営業」は同じではない
従来の行動の速い営業と、資料を読み前提を疑って次の判断材料を用意する営業を比較した図

AI対AIのメールは、速く返せても前へ進まない

たとえば、取引先から次のような連絡が届いたとします。

取引先から届いた提案

「弊社社長が、今後の協業について意見交換の機会を設けたいと申しております。貴社の関係部署や責任者の方にもご参加いただけないでしょうか」

文章だけを見れば、前向きな申し出です。
しかし、受け取った担当者には別の事情があります。
両社はパートナーとして何度か相談を交わしたものの、まだ目立った取引には至っていない。
過去の案件も費用や条件が合わず、現時点では上司や他部署へ「ぜひ会ってほしい」と説明できるほど、具体的な議題がありません。

だからといって、「実績もないので、責任者は紹介できません」とそのまま返すわけにもいきません。
関係を否定したいわけではなく、今後、別の機会に仕事が生まれる可能性もあります。
担当者は生成AIに、関係を損なわず、現時点では会議を設定しにくいことを伝える返信文を作らせます。

おそらく、これは受け手側だけの話ではありません。
最初の「社長との意見交換会」という提案も、送り手側がAIに相談し、関係改善につながるメールとして整えた可能性があります。
これはあくまで仮説ですが、今では十分に起こり得るやり取りです。

送り手も、受け手も、相手に失礼のない文章を用意できる。
その結果、以前より整った長文メールが往復します。
しかし、両社の条件は本当に合うのか、何を話せば取引につながるのか、今この会議を開く意味があるのかという問題は、置き去りのままです。

図2 AIは文章を整えられるが、問いの設定まで自動的に正しくなるわけではない
提案側と受け手側がAIでメールを作成しても、本来の論点や条件の不一致が残り案件が止まる流れを示した図

私たちが提出した提案を先方が断るときも、同じことが起きているのかもしれません。
担当者が提案書をAIに読ませ、採用しない理由を整理する。
社内には費用対効果を説明し、こちらには関係を損なわない断りのメールを送る。
相手が不誠実なのではなく、社内と取引先の間で摩擦を生まずに仕事を進めようとしているのです。

この前提に立つと、営業側がすべきことも変わります。
巧みなメールで相手を押し切るのではなく、相手が後から懸念しそうなことを、こちらから検討材料として差し出す必要があります。
返信の往復を速めるのではなく、往復そのものを一回減らす。
それが、AI時代の営業に求められる速さです。

よい答えをつくる前に、問いそのものを疑う

生成AIは、与えられた問いに沿って文章や資料をつくることを得意としています。
「意見交換会へ参加してもらうメールを書いてほしい」と頼めば、参加したくなる文面を作ります。
「関係を悪くせずに断りたい」と頼めば、柔らかな断り文を作ります。

しかし、そもそも今、意見交換会を開く必要があるのでしょうか。
取引が進まない原因はコミュニケーション不足なのか、それとも価格、体制、求める業務範囲の不一致なのか。
問いの立て方が間違っていれば、どれほど完成度の高いメールを作っても、仕事は進みません。

クリティカルシンキングとは

相手の意見を否定することではありません。
与えられた前提をそのまま受け入れず、「本当に解くべき問題か」「目的と手段が入れ替わっていないか」「別の原因を見落としていないか」を確かめる思考です。
MBAでいう「イシュー」を見極める作業にも通じます。

たとえば、「取引を増やすために経営層を交えた会議を開きたい」という依頼があっても、過去の案件が進まなかった理由が費用や制作条件の不一致なら、参加者を増やしても解決しません。
先に、どの条件が合わなかったのか、条件を変えれば成立する余地があるのか、両社が組むことで利益が生まれる領域はどこかを整理する必要があります。

走り出す前に、行き先が合っているかを確かめる。
これが、フットワークより先に必要な仕事です。

「課題は何ですか?」と聞く前に、材料を読む

営業では、顧客の課題を丁寧にヒアリングすることが重視されます。
しかし、顧客自身が課題を正確に理解し、短い言葉で説明できるとは限りません。
むしろ、それができないから外部の会社へ相談しています。

そこで、事前に送られた資料をほとんど読まず、初回の打ち合わせで「御社の課題は何ですか?」と聞けば、課題を整理する仕事を相手へ返していることになります。
質問することが悪いのではありません。
何も仮説を持たず、ゼロから説明させることが問題です。

価値のある外部パートナーは、膨大な社内資料を読み、そこに使われている言葉を、別の部署や社外の人にも通じる表現へ置き換えます。
情報量が足りないのか、目的の異なる内容が一つに混ざっているのか、意思決定者と実務担当者の認識がずれているのか。
まず仮説を置き、相手が「その通りです」「そこは違います」と答えられる状態をつくります。

ヒアリングの違い

×「御社の課題は何ですか?」

「資料を見る限り、情報不足よりも、採用向けと営業向けの目的が混在していることが問題ではないでしょうか」

後者は、外れる可能性があります。
それでも、外れたと分かるだけで一歩進みます。
仮説があるからこそ、相手は違いを具体的に説明できるからです。

本当に速い営業は、「自走するが、暴走しない」

経営者も中間管理職も制作の専門家も、本音ではかなり都合のよい外部パートナーを求めています。
資料は言われなくても読んでほしい。
問題は先に見つけてほしい。
面倒な整理は終わらせてほしい。
社内で通しやすい形にしてほしい。
できれば利益につながる案も考えてほしい。
ただし、勝手に話を進めてほしくはない。

確かに、発注側としては少しだらしない注文です。
しかし、ここに人へお金を払う理由があります。

何でも勝手に決める人ではなく、相手の判断権を残したまま、判断前の雑務を引き取る人。
選択肢を整理し、費用、時間、リスクを並べ、決裁者が気にしそうな点を先に書く人。
次回の会議で決めることを絞り、必要な資料を頼まれる前に用意する人です。

図3 「思考の先回り」は、相手の代わりに決めることではなく、判断の負担を減らすこと
資料を読む、前提を疑う、仮説を置く、立場に応じて翻訳する、判断材料を備えるという思考の先回りの5段階

本当に速い営業は、案件全体を速くする

表1 「動きの軽い営業」と「本当に速い営業」の違い
場面 動きの軽い営業 本当に速い営業
問い合わせ後 すぐ訪問を提案する 資料と目的を確認し、オンライン・訪問のどちらが早く進むか判断する
返信 とにかく早く返す 前提、確認事項、次の行動まで整理し、往復を減らす
ヒアリング 課題を一から聞く 資料から仮説を置き、相手が修正できる形で示す
リマインド 返事が来るまで連絡する 相手が返答できない理由を想定し、判断材料を追加する
提案 要望どおりの制作物を示す 目的を問い直し、利益や次の展開につながる選択肢を示す

編集プロダクションも、「作る速さ」ではなく「進める速さ」で選ばれる

編集プロダクションは、原稿、デザイン、書籍や冊子などを受託する会社です。
成果物を指示どおりに早く作るだけであれば、生成AIや低価格の制作サービスとの比較を避けられません。
一般書籍市場の縮小を考えても、「編集プロダクション」という業種の認知を広げるだけで、新しい受注が増えるとは考えにくいでしょう。

ただし、編集の仕事には、情報を読み、重要なものを選び、別の立場にも通じる言葉へ変える機能があります。
この力を制作物の中だけで使う必要はありません。

採用広報であれば、経営者の言葉と現場の実感をつなぐ。
新規事業であれば、社内用の説明を顧客に伝わる価値へ置き換える。
営業資料であれば、機能の羅列から、相手が判断できる論点をつくる。
社内報や周年事業であれば、散在した資料を読み、組織が今後使える物語へ再構成する。

こうした相談は、「本を作りたい」「編集プロダクションを探している」という言葉から始まるとは限りません。
まだ依頼内容が固まっておらず、社内の資料や考えがまとまっていない段階で、「この会社なら、話を聞くだけでなく、次の仕事まで進めてくれるかもしれない」と思ってもらうことが、新しい仕事の入口になります。

この記事も、AIを使って書かれています

ここまで読んでいただいたうえで、最後に一つだけ種明かしをすると、この記事も生成AIを使って書かれています。

ただし、最初にタイトルを入力し、一度出てきた文章をそのまま掲載したものではありません。
営業現場で感じた違和感、発注側と受注側の両方から見た仮説、AIによって変わったメールのやり取り、クリティカルシンキングやイシューの考え方など、さまざまな角度から材料を入力し、前提を疑いながら何度も組み直しています。

もし、「AIで書いた文章だから、自分とは関係がない」とは感じず、むしろ「自分の案件でも似たことが起きているかもしれない」と思われたなら、それはAIの文章力だけによるものではありません。
この記事に含まれた具体的な材料のどこかに、同じような仕事をしてきた方の心当たりがあったからではないでしょうか。

自社の採用広報、新規事業の情報整理、営業資料や企業コンテンツの再構成などについて、「まだ依頼内容は固まっていないが、一度話してみたい」と思われた方へ。
課題を一から説明していただくことを前提にせず、まずは共有いただける資料から仮説をつくるところから始めます。

――というのが、この記事を通じた私たちなりの営業です。

押しかけるのではなく、読んだ方が自社の仕事を考える材料を先に差し出す。
動きの軽さではなく、案件全体を前へ進める速さを示す。
これもまた、AI時代の「思考の先回り」だと考えています。

まだ依頼内容が固まっていなくても、ご相談ください

採用広報、新規事業の情報整理、営業資料、企業コンテンツなど、
「何を頼めばよいか」から整理したい段階でも構いません。

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投稿者

  • 眼鏡をかけたスーツ姿の担当者のプロフィール写真

    出版社・編集プロダクションで、営業窓口、案件統括、事業戦略、採用、社内IT運用などを横断して担当。
    書籍・冊子・Webコンテンツの企画相談から、制作体制の設計、見積もり、スケジュール調整、業務改善まで、発注者と制作現場の間に立って実務を進めている。
    本メディアでは、編集プロダクションへの発注方法、本づくりの進め方、制作費やスケジュールの考え方、営業・AI活用などについて、現場で起きやすい認識のずれや失敗例も踏まえながら、発注者・制作者双方に役立つ情報を紹介する。

この記事の監修者
株式会社G.B.

株式会社G.B.

雑誌・書籍・ムックの編集・出版を中心に、
その他にも広告媒体の企画・編集・制作著作権の管理・運用、翻訳、その他上記に付帯する一切の業務を行う。

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